つんく♂さんがヒャダインさんに語った制作術とプロデュース論
私がガールズポップを好きになったきっかけの一つがヒャダインさんがNHK-FMでやっている「ヒャダインの“ガルポプ!”」という番組です。
今年の正月に車に乗っていてたまたまつけたラジオで「ヒャダインの“ガルポプ!”冬休みスペシャル」という番組をやっていて、そこで3776やライムベリーやBiSなど、僕が今まで知らなかった音楽が流れていて、今のガールズポップ界はこんなに面白いことになっているのかと稲妻に打たれたような衝撃を覚えたのでした。
そこでYouTubeで過去の放送分をdigってみたところ第一回につんく♂さんがゲストとして登場していて、ヒャダインさんと熱い音楽トークを繰り広げていました。
つんく♂さんのサウンドに対するこだわりやプロデュース論、制作術など、深い話がたくさんあり、お二人の音楽に対する愛情と造詣の深さに感動しました。
意図してブレイクさせるのではなく、今のメンバーで表現できることを最大限に表現することを第一だと考えるつんく♂さんのプロデューサーとしてのこだわりは、今のハロプロの快進撃を見るとなるほどと思います。
ヒャダインの“ガルポプ!”2013年10月18日、2013年11月01日-サウンド面から解き明かす、ハロプロ-より、一部を書き起こしさせて頂きました。
フォーメーションダンスが生まれた理由
ヒャダイン:続いては『Help Me!!』。もうこれのDance Shot Ver.が出たときの衝撃ったら、日本のみならず世界をざわざわさせましたもんね。
つんく♂:かなりのクリック数がありましたからね。
ヒャダイン:フォーメーションダンスですよね。ダンスショットなので定点カメラですよね。フォーメーションがどんどん動く様子が出て、しかも音がブリッブリのEDMで、アイドルソングではあまりやっちゃいけないと感じられていた声の加工、オートチューン的な音の加工もやりつつ。
つんく♂:韓流とかは結構多かったけど日本はあまりみんな好きじゃなかったんだけど、ちょっとでもいじるといじられたみたいな、書き込みでもウワーってなって。
直しすぎじゃねえかみたいなのがあったけど、一気にやってみようぜと。この前の『One Two Three』ぐらいから一気に気にせずいっちゃおうぜっていう感じで、アルバムで何曲かね、道重の声を使ってやっていたので、大丈夫やなと思って。
ヒャダイン:道重さんってすごいオートチューン乗りいいですよね。
つんく♂:あいつ掛けてへん曲も掛けてるって思われるぐらいなのよね。ダブルにしたらオートチューンにしたように聞こえてしまったり。
ヒャダイン:いらっしゃいますよね、そういう方って。
つんく♂:それで『Help Me!!』もダンスも含めてやけど、日本の中ではこれもオッケーなのみたいな感じになったみたいなね。
ヒャダイン:しかも循環コードを使ってないEDMというのが僕にとってはものすごく斬新でしたね。
つんく♂:そうね、我慢!行きたくなっても我慢!
ヒャダイン:我慢!というわけでモーニング娘。で『Help Me!!』
~曲~
ヒャダイン:この曲のフォーメーションダンスの発想に至ったところを聞きたいのですが。
つんく♂:さっきのプラチナ期って言われてた高橋とか亀井がいた頃って踊りも迫力があって体も大人になって出来上がってて踊っててもパワーがあったんだけども、小さくなったんで、鞘師は踊りは上手いんだけど体が小っちゃい、高橋は別に背が高いわけじゃないんだけどなんなんだろうね。
ヒャダイン:高橋さんのワイルドさっていうのはなんなんでしょうね。
つんく♂:なんかやっぱあるのよね。鞘師もあと4、5年したら迫力が出てくると思うけど、踊りはめっちゃ上手いんだけど激しさというか熱量みたいなものがまだまだ小さい、軽いから。だったら技術を活かして激しく踊るんじゃなくって
ヒャダイン:精密に踊るというか
つんく♂:太極拳じゃないけどゆっくり動く楽しさとか、マイケル・ジャクソンのムーンウォークとかでも激しいわけじゃないけど美しさがあるわけやんか。
そういう発想と、中国で千手観音、何人もの女の子が繋がった、ああいう美しさが今のメンバーだったらできるんじゃないかとか、上手い子も下手な子も混じってできるとしたら何があるだろう、
踊りだけで言うたら昔のMAXのほうが絶対上手かったと思うから、それと違う何かを今どきのあいつらのやれることと思って、ダンスの先生と打ち合わせをして、「踊りじゃないんだ」みたいな、さっきの「循環コード行くんじゃないんだ、ステイなんだ」みたいな。
ヒャダイン:まさに最近言われているモーニング娘。の再ブレイクがEDMであったりフォーメーションダンスであったり、いろんなものが複合的に重なって目を引く存在になっていると思うんですけども、やっぱりフォーメーションダンスってすごく大きいと思うんですけど、つんく♂さんの発案ってことなんですね。
つんく♂:そうね。ダンスの先生にこういう表現がしたいなって話をして、You Tubeとかを見せて、ここはこういうとこ取りたい、ここはこういうのをやりたいっていうのを見せて、分かりましたと決まって
ヒャダイン:振り付けの先生がいい打ち返しをしてくれましたね。
つんく♂:そうだね。「広い空でブンブンブン」のあたりからずっとやってくれてるんだけど。
ヒャダイン:あ、そうなんですね。ずいぶん前ですね、平家みちよさんの頃ですもんね。
つんく♂:そうそう。松浦のデビューとかも俺が振り付けたやつをもうちょっと分かりやすくしたってとかって言うて、松浦の「Yeah めっちゃ」とか俺が付けてたから。
曲書くのと同じやけれども、まずCメロみたいのを作ってしまって、先生に訳せるでしょ、みたいな。ツーエイトとがダンス用語みたいのがあんねんやろ、そういうのは任せるからここはこうなってここはこうなりたいみたいな話をいつもするのよ。
ヒャダイン:アレンジャーにアレンジを伝えるのと同じイメージなんですね。まさにトータルプロデューサーっていうことですよね。本当最近のモーニング娘。はとくに目を引くなあと思って。目を離せない存在だと思ってますね。
つんく♂:まあやっぱり鞘師とか石田が入ってきてまず踊れるやつがいるっていうのがでかいね。もう俺の中のほとんどのことクリアーしてくれるから。もうそれだけでありがたいね。
ヒャダイン:それで小田さんのように本当に
つんく♂:あいつ踊りも踊れるし歌も骨があるから任せられるとこ任せられるんで。
ヒャダイン:あと僕は個人的に鈴木さんの存在って。
つんく♂:鈴木の声もいいのよね。
ヒャダイン:あと存在としてああいう面白い方がいらっしゃるっていうのが
つんく♂:面白いやつ(笑)、そうね。もうちょっと太るか痩せるかはっきりしたほうがええと思うけどね。まだちょっと中途半端よね。
ヒャダイン「もっとプニ子に行くかというかという。いまプニ子界で結構上位にいらっしゃるらしいので。」
モーニング娘。の再評価は今表現したいものを表現した結果
(『わがまま 気のまま 愛のジョーク』を聴きながら)
ヒャダイン:振り付けにしても曲にしてもすごくフックが多い曲だなと思っていて、そこが今のモーニング娘。をみんなが目を離せない理由なのかなと思うんですが。つんく♂さんから見て今のモーニング娘。の魅力っていうのは。
つんく♂:フックが多いのも『LOVEマシーン』にもいっぱいあったし、それぞれいろいろやってきてたんだけど、たぶんやっぱ今のメンバーと時代と曲の僕から出てくるものがうまく重なってるだけかな。
結局いつもそうなん。タイミングやねんけど、『LOVEマシーン』を一年前後間違ってたらたぶん100万枚売れてなかっただろうし、たぶんヒャダインという存在も何か時期か時代が違ったらここにいなかっただろうしみたいな、もちろん俺もそうだけど、本当にうまくタイミングが合ってこの曲に結びついていくというかね。
ヒャダイン:なるほど。意図してブレイクさせてやるぞみたいな感じじゃなくて、本当に今の表現したいものを表現した結果、みなさんから支持がどんどんまた再評価されてるっていう。
つんく♂:サビをもっとサビらしく作ったほうがええのかなっていつも迷うねんけども。
ヒャダイン:『One Two Three』以降サビらしくないですよね。
つんく♂:そうやねん。だから大丈夫かな?って不安はずっとあんねんけど。でもそれがいいのかな?っていうね、このね、我慢ね。
ヒャダイン:だからよく作れるなって思います。
つんく♂:怖いやろ?
ヒャダイン:怖いです。怖いです。無理です。サビは「サビです、ドーン」っていうのがなかったらやっぱり怖いんですよね。
つんく♂:ディレクターとかにも「どっからサビですかね?」って聞かれるんねんやけど、「わがまま 気のまま」のとこもサビっちゃサビやし、「負けない 負けない 負けたくないから」もそうやし、「愛されたい 愛されたい」も。
ヒャダイン:サビだらけっていうことですね。
つんく♂:サビだらけな感じもするしね。
ヒャダイン:たしかにトシちゃんも昔サビだらけの曲とかありましたもんね。『抱きしめてTONIGHT』とかサビだらけでしたね。たしかにこういうやり方もあっていいのかなと思いますね。
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- 発売日: 2013/08/28
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ハロプログループの色付け
ヒャダイン:モーニング娘。っていうのは『モーニングコーヒー』で正統派なアイドルソングをやった後に『サマーナイトタウン』っていう
つんく♂:一気に変えたから。勝負に出たから。あそこでコケてたらしゃあなかったんやけど、あそこでうまく波に乗ったから。だからあの路線変更は正解やったっていう。
ヒャダイン:あの舵取りはすごいですよね。本当にハロプロには色々なグループがあるんですが、そちらの色付けっていうのは特別につんく♂さんからされてたりするんですか?
つんく♂:あんまりしてない。勝手に℃-uteとBerryz工房なんて本当に当時同じハロプロキッズの中から選んでできたグループなので、適当に分けたのよ、適当に。
ヒャダイン:適当に分けたんですね?
つんく♂:そうしたら勝手に色分けができていってしまったのよね。
ヒャダイン:たしかに人数が違うというのもありますけど、今は全くグループとしての性質が違いますよね。
つんく♂:そうなのよ。性質も違うし、渡す曲もたまたまそうなっていったりとか、なんか不思議に縁というのがあるよね。俺がいくら作ってても。
ヒャダイン:あんまり意識はされないんですね。
つんく♂:そう。同じ曲を違うチームが歌ってたらそう聞こえへんのやろうなって曲もいっぱいあるよね。
ヒャダイン:スマイレージとかは底抜けに明るい感じで他のチームでは歌えない楽曲が多いなと思うのですが。
つんく♂:スマイレージに関しては意識して渡してるかな、今は。いっときのメロン記念日じゃないけど、スマイレージの場所を探そうみたいな。
年間100曲以上制作するつんく♂さんの曲作り
ヒャダイン:野暮ったい質問なんですけど、年間でどのくらい楽曲を作られますか?
つんく♂:ハロープロジェクトがほとんどですけどカップリングとかアルバム曲も含めて100曲はたぶんいってると思うけどね。
ヒャダイン:いきますよね。最近シングルを1枚出したらアルバムを切れるんじゃないかというぐらいに初回盤ABC。
つんく♂:だいたいダブルA面のカップリング3曲とかやから5曲ぐらい作ってるんで。
ヒャダイン:よく作れるなと思うんですけど。
つんく♂:本当に大変よ。
ヒャダイン:プラスBerryz工房もあり℃-uteもありJuice=Juiceもあり、なんでそんなに精力的にできるんですか?
つんく♂:なんでやろね。でもやっぱりライブを観に行ったりとかしてファンのみんなが盛り上がってくれるのを見たらやっぱ嬉しいなと思うし、メンバーたちの今回の曲ああでしたこうでしたっていうリアクションがあると嬉しいし。あとは子供たちが曲を聴いて反応するから、「あ、この曲は反応せえへんのかな?」とか「これはノるなあ」とかいろいろあるしね。
ヒャダイン:家庭内リサーチが。そんな曲作りのインスピレーションはどこにありますか?
つんく♂:どうかなあ?どうしてる?普段。
ヒャダイン:僕はインスピレーションもへったくれもなくひたすら書きまくってますね。
つんく♂:どうやって、どうやって?
ヒャダイン:もうひねり出して。
つんく♂:今どのくらいのペースで曲書いてるの?
ヒャダイン:今週きつかったですね。一日一曲ペースでしたね。
つんく♂:アレンジも含めて?
ヒャダイン:アレンジも含めてですね。
つんく♂:ああ。ヒャダインの場合アレンジも含めるからなあ。大変やなあ。
ヒャダイン:ええ、もうゲロ吐きそうでした。
つんく♂:どうしても自分だけでやってると限界がくるからね。ある程度アレンジは振るとこは振っていったほうが。
ヒャダイン:そうですね。最近はロックサウンドのときは振ったりとか。
つんく♂:そのほうがええよ。自分にないフレーズが出てくるからさ。
ヒャダイン:そうなんですね。それが嬉しいですよね。
つんく♂:それで自分に足していけばまた新しいものになるし。昔、筒美京平さんも一回壁があったっていうもんね。自分でアレンジしたいけど時間がないっていう。
ヒャダイン:そうですね。そういうときは人に振るほうがいいんですね。
つんく♂:時間に余裕を作っていって遊ぶときは遊んでいろんなものを吸収して帰ってきてみたいな。
ヒャダイン:遊ぶことは大切ですよね。
つんく♂:大事やと思うで。
ヒャダイン:ありがとうございます。遊びます俺。
つんく♂さんの女子力は観察力から
つんく♂:いやー『蝉』、『さぼり』の歌詞をちょっとね、ヒャダインに今度見てもらいたい。俺の女子力を語るならこの曲を知らないとダメねみたいな。
ヒャダイン:そうなんですね。つんく♂さんの女子力は勉強させて頂くところがすごく多いので。
つんく♂「女子力ではないんよ。本当は観察力やと思うねん、ほんまは。例えばこのNHKも中が複雑やんか。そのダンジョンの中を自分がどう歩いてきたかなっていうことを覚えてるか覚えてないかやんか。
どこに花屋さんがあってどこに売店があってどこにカフェがあってとかどこにラーメン屋さんがあってとかということや、今日すれ違った女の子はどんな服を着てたかなとか、あの受付に座ってた女の子は一日どんなことを考えながらあそこに座ってるんだろうとかね、そういうことをインスピレーションを広げていく訓練とか、そういうことかな。」
ヒャダイン:脳みそ溢れませんか?
つんく♂:でもまあ
ヒャダイン:癖になってるんですかね。
つんく♂:そうかなあ。
ヒャダイン:やっぱりそういうふうにしていろいろ想像して自分の中で
つんく♂:歌詞書くのはあんまり不得意?好き?どっちかというと歌詞のほうが好き?
つんく♂:俺もどっちもどっちやけど、歌詞はノッてきたら早いねんけど、スイッチが入るまでが時間がかかる。曲は適当にいじってたら曲になるやんか。ウソでも。これ曲やって言ってしまったら曲やんか。
ヒャダイン:歌詞はウソでもならないですからね。
つんく♂:歌詞は難しいのよ。
ヒャダイン:コンセプトの軸が決まらないと。
つんく♂:そうやねん。
ヒャダイン:1ワード出るか出ないかなんですよね。
つんく♂:1個あればね、広がんねんけど。
ヒャダイン:つんく♂さんの歌詞のバランス感覚ってすごくいいなあと思うのは、カッコいい歌詞の中にいきなりちょっとハンバーグ食べようとか、ラーメン並んだりとか、身近にある言葉とバンバン入れていくっていうのが。
つんく♂:そうね。でもやっぱり女の子の頭の中って、俺は半分くらいスイーツじゃないかなと思ってんねん、極論を言えば。それを頭に留めながら歌詞を書いていくっていうね。
ヒャダイン:そういうのを入れて忘れないようにしながら書いていくと。
つんく♂:スイーツとファッション。
ヒャダイン:と恋愛。
つんく♂:恋愛はね。恋愛してる子ってすごい少ないと思えへん?
つんく♂:たぶん恋を捨てても彼氏がおっても恋愛をしてるのは最初の2ヶ月くらいで、あとは惰性やん。
ヒャダイン:惰性ですね。若い子なんてそうかもしれませんよね。目移りが激しいですからね。
つんく♂:と思ったら恋愛の曲って意外とそんなに刺さらへんのよね。
ヒャダイン:と考えたら友達の歌だったりとか
つんく♂:いや、恋愛なんだけど周りにどんなことがあるかによってその曲が膨らんでいくのよ。「会いたくて」って言うとるけど、会いたくての前後にリアリティーがあるから、ああ、西野カナ好きとか、ドリカムのってすごいとか。
ヒャダイン:そういうことなんですね。